最近、女性だけのメンバーで構成されたプロジェクトに立て続けに関わる機会がありました。ひとつはわが社の創業60周年記念事業の実行委員会。もうひとつは母校の同窓会組織「瓊林会」の活性化対策会議です。
いずれも私はオブザーバーのような立場だったのですが、メンバーのごく近くでそれぞれの取り組みを目の当たりにすることができました。
わが社の60周年記念事業の名前は「わくわく☆ワーク」。ありきたりの祝賀パーティや記念品の配布などではない、本当に社員の心に残るもの、これから先につながってゆくもの、そして社是にある「社会貢献」となるもの・・・という検討の中から社員の子どもを会社に招き、親と一緒に仕事を体験してもらうという「子ども職場参観」を実施することとなりました。
実行委員の構成は6名で全員女性。子育て中のメンバーもいれば、まだ独身、というメンバーも半数います。部署も別々で、お互いの仕事をやりくりしながら時間を作り、あるいはメールで情報を共有しながら半年以上をかけて企画を練り上げ、準備をし、実施にこぎつけました。
当日、全社員が集まる朝礼で、参加した11名の子ども達は任命書とともに親と同じ部署の自分の名刺を渡され、名刺交換の練習に始まり、環境クイズ、社内のごみ分別などを経験し、午後は親と一緒に営業訪問をしたり、複写機の分解修理に携わったり・・・と一日があっという間に過ぎたようでした。小学生が中心でしたので、わかりやすいイラスト入りの会社の説明書を用意し、当日使う資料から最後に書く感想文まですべてを1冊のファイルにまとめられるようにするなど、細やかな配慮と楽しいアイディアがふんだんに盛り込まれて、参加した子ども達だけではなく、親も、そして社員も、たくさんの気づきと思い出を得ることができた本当に有意義な取り組みでした。
前例もない、正解もない、初めての取り組みの中、全社員に向けての呼びかけや、子どもの目線になっての計画づくりなど、苦労も多かったはずですが、彼女達はそのひとつひとつを協力して乗り越えてゆき、結果は大成功を収めました。
もうひとつの女性だけのプロジェクトは「瓊林会活性化対策会議」。100年を越える歴史を持つ長崎大学経済学部同窓会「瓊林会」。この組織が抱える諸問題を明らかにし、活性化に向けての提言書をまとめる、そんな重い任務を課せられてのスタートでした。
こちらのメンバーは40代以下の若手の女性たち12名が、長崎市内の主だった職域から推薦されて集まりました。
詳細はぜひ、こちらをご覧いただきたいのですが、ここでも私はやはり彼女たちの持つ明晰な問題発見力や期限までに課題を仕上げようとする責任感、そしてお互いをさりげなく思いやる優しさ、といったものをひしひしと感じました。出来上がった提言書は各世代の方々から大変評価していただき、今後実行に移していくための準備が継続して進められています。
ふたつのプロジェクトは、なぜ女性だけのメンバーで構成されることになったのでしょうか。
わが社では「これまでにやったことのない初の取り組みなので、女性の自由な発想を活かして欲しい」という期待とともに、プロジェクトの達成を契機としてメンバーの成長を望んでいました。瓊林会においては、規模が大きく、かつ歴史も長いという組織の中で、時代の変化を今後の運営に取り入れていくためには女性からの忌憚ない意見と、柔軟な対応力に期待が寄せられていたのだと思います。
社会全体を見ても、さまざまな会社や組織の中で閉塞感を打ち破り、よりよい方向性や新しい取り組みを模索するときに、女性の発想、女性の視点を、というのはよく聞かれます。何が、どう違うのか、何を期待されるのかはケース・バイ・ケースで、わりと曖昧なまま(時には安易に)その言葉が使われているように感じることもあります。
ただ、私は、このふたつのプロジェクトには共通点があると思っています。それはどちらも「こころ」が中心に据えられた取り組みであるということ。
「子ども職場参観」は、直接売上や利益を生むものではありません。同窓会も営利でつながった組織ではありません。そこにあるものは、人を大切に思う、「こころ」。だからこそ、どちらのプロジェクトも、女性だけで構成されたメンバーが遺憾なく力を発揮しえたのではないでしょうか。
作詞家の麻生圭子さんが、京都で町家に住み始めたばかりの頃の話を読んだことがあります。細長い町家には居間をはさんで前庭と坪庭があり、夏のあまりの暑さに麻生さんは前後の庭に同時に打ち水をして、暑さをしのごうとしたそうです。しかし、ちっとも涼しくならない。近所の人から、「両方の庭に水をまくからだめなのだ」と教えられて麻生さんは驚きます。どちらか片方の庭にだけ、打ち水をする。そうすると前後の庭に温度差ができて、風が生まれる。庭にはさまれた居間に、魔法のように涼しい風が通り抜けたそうです。
たぶん、これまで男性中心で築きあげられてきた社会構造、組織の論理といったものを別の角度から解きほぐしていくための風を生む「温度差」が、今、必要とされていて、その最たるものが、「女性の発想力」ということなのでしょう。
男性と女性の発想の差、だけではありません。組織の中で、何か事を起こそうとすると、そこには必ず「温度差」があるものです。でも、それをマイナスなこととらえず、「風を作り出すために必要なもの」ととらえてはいかがでしょう。違う考えを持った人たちの集合体の中で、目的に向かって進もうとするとき、理論武装した仕組みだけでは人は動きません。そこにひとりひとりの「こころ」があることを忘れないでほしいのです。
それぞれがお互いに温度差をもちつつも、自分の足で立ち、考え、行動を起こす。そこには必ず、新緑の5月を思わせるような心地よい風が、吹いてくるに違いありません。